大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)514号 決定

動産売買の先取特権ないしそれに基づく物上代位権は、買主が当該動産を他に転売してその転売代金債権を取り立て若しくはこれを他に処分すること又は転買人(第三債務者)が転売代金を右買主(債務者)に支払うことを禁止する実体上の効力を有するものではなく、右動産が転売された場合、売主としては、転売代金債権の取立て、処分又は払渡しが行われる前に、先取特権の存在を証する文書を執行裁判所に提出し、転売代金債権に対する差押命令を得ることによって初めて、右先取特権に基づく物上代位権を実行することができるものである(民法三〇四条、民事執行法一九三条、一四三条)。すなわち、右の転売代金債権に対する差押命令があるまでは、買主において自由に転売代金債権を取り立て又は処分することができ、その結果、物上代位権の目的物が消滅することになるとしても、先取特権者たる売主に対する関係においては何ら義務違反等を構成するものではなく、先取特権ないし物上代位権そのものに基づいて右取立て又は処分の差止めを請求する権能は認められていないのである。<中略>

しかるに、民事執行法一九三条一項所定の担保権証明文書を有しない先取特権者が、物上代位権に基づく将来の差押えを保全するため、本件申請のような仮処分により買主の転売代金債権の取立て若しくは処分又は転買人の払渡しをあらかじめ禁止しうるとすることは、実質的に、差押命令前に先取特権ないし物上代位権そのものによって本来自由とされている買主の右取立て若しくは処分又は転買人の払渡しの差止めを許すのと何ら異なるところがなく、先取特権者にその実体上の地位以上の保護を与えることになる。

もっとも、右仮処分を許さないとすると、前記担保権証明文書を有しない売主は、買主が自己の代金支払債務を履行しない一方で売主の物上代位権の目的物を消滅させてしまうのを阻止できないことになるが、もともと動産売買の先取特権者の実体上の地位が右述のようなものであるうえ、先取特権の物上代位については、払渡し又は引渡し前に差押えをすべきことが要求されており(民法三〇四条)、かつ、その実行のためには、担保権証明文書を提出して差押命令を得なければならないと定められている(民事執行法一九三条、一四三条)ことを考えると、右物上代位権は、民事執行法の定める実行手続をとることによってのみその実効性を保全、確保することができるものであり、それまでは右のような結果を生じてもやむをえないところと解さざるをえない。これは、右実定法の下における先取特権ないし物上代位権の限界及び強制執行手続と担保権実行手続との差異から生じる結果であって、抗告人主張のように債務者たる買主の意思によって不当に先取特権の効果を左右するものとみるのは相当でなく、また、右のように解したからといって先取特権制度の存在意義を失わせるものであるということもできない。

(中島 佐藤 塩谷)

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